第十四回 西田享将さん (グラフィックデザイナー)

Kyosuke NishidaKyosuke Nishida

カナダで活躍する日本人、第十四回目はカナダの大手デザイン会社 Bruce Mau Design でグラフィックデザイナーとして活躍されている西田享将さん(以下敬称略)をご紹介します。西田さんは早稲田大学第一文学部を卒業後、一旦日本で就職しその後渡加。大学でグラフィックデザインを学んだ後、モントリオール、トロントで就労経験を積まれました。


QLS: 西田さんは、Express Entryで永住権を取得された弊社の最初のお客様となりました。永住権を取得した感想はいかがですか。

西田:実は私が一番心配だったのはワークビザの延長で、お陰様でこれがうまくいって仕事を続けられると安心していたところに、すぐにPRが届いたのでとても驚きました。結局申請してから4カ月足らずでした。

QLS:西田さんはコンコルディア大学卒業後に比較的短期間で複数の会社を経験されていますが、北米のデザイン業界では転職は一般的なんでしょうか。

西田:そうですね。デザイン業界に限らず、北米では卒業後に自分の希望するような会社で、すぐにフルタイムとして働くことが容易ではありません。そのため、卒業後はいろいろな会社で経験を積み、コネクションをつくり、自分のキャリアを設計する必要がありました。

QLS: 実際、デザインの仕事はどのように進められていくんですか。

西田:仕事のプロセスは、もちろんプロジェクトによって変わってくると思いますが、 大きなプロジェクトの場合は、クライアントが主催するデザインコンペなどに参加し、仕事がとれるかどうかが決まることがよくあります。私の会社ではプロジェクト・ディレクターやプロダクション・マネジャー、複数のデザイナーなど10人程で構成されたチームがコンペに参加し、クライアント達に自分たちの会社をアピールします。実際にコンペに勝ち、仕事を請け負うことになると、大雑把な流れですが、いくつかのデザインスケッチを見せ、クライアントに選んでもらい、細部をつめていくという作業になります。面白いのは、 クライアントが最も気に入ったデザインをした人が 、その後そのプロジェクトの事実上のリーダーとなってプロジェクトを進めていくことになることです。これはうちのチームの特徴なのかもしれませんが、このプロセスでは、ディレクターもデザイナーもあまり関係なく、任されたデザイナーが自分の意思で、ある程度自由にデザインすることができます。なので、自分のデザインが採用され続けると、デザイナーとしては嬉しい半面、ワークロードが増えて、凄まじく忙しくなります(笑)。

私の会社では、グラフィックデザイナーにはデザインの制作に留まらず、クライアントの会社のビジョンを目に見える形にしたり、クライアントのメッセージを伝えるためのソリューションを提供しているという意識が強いです。僕は以前、グラフィックデザイナーは単にロゴやポスターだけを作っているイメージを持っていましたが、実際の仕事ではブランドを確立するために様々なリサーチが行われ、時には実際のデザイン以上に時間をかけることもあります 。

QLS: なるほど、デザインに対する考え方の文化的な違いもありそうですね。北米の会社でサバイブする秘訣のようなものはありますか。

西田:日本のように一生懸命働いていれば、あるいはいい仕事をしていれば、自然と周りも認めてくれたり、時が経つにつれて自分の地位が自然と確立するというような考えは、あまりないように思います。会社の中で自分を強くアピールしていかないと、逆に価値がないとみなされてしまうことが、むしろ多いと思います。僕も最初は戸惑いましたが、最近はだいぶ慣れてきてマネジャーを相手にタフな交渉もするようになってきました。

QLS:話は前後しますが、もともとカナダに留学しようと考えられたきっかけは何ですか。

西田:実は僕は、将来は作家になりたくて文学部を選び、大学卒業後は、なんとか文章に関わる仕事がしたくて出版社に入りたかったのですが、当時は就職が超氷河期で出版社への就職は厳しく、某大手出版にいたっては6500人の応募に対して1人しか採用しないという状況だったんです。それで諦めて、在学中に学んだ映画・演劇の理論を実践に生かせる場として映像制作会社に就職しました。仕事は充実していましたが、毎日夜中の1時、2時まで残ったり、月に500時間くらい働くこともあり、健康面の心配がありました。また、若かったからか、先が見えてしまったような気持ちになってしまい、このまま人生終わりたくないなと漠然と考え、特にカナダでなくても良かったのですが(笑)、英語圏で安いところを探しているうちに、大学時代お世話になった教授の勧めもあってモントリオールに来ることになりました。

QLS:カナダでの大学生活はどうだったですか。

西田:日本の大学では基本的に学生はあまり大学に対して期待しておらず、学問というのは自分自身で学ばなければいけないという風潮がありましたが、モントリオールでは、学生が真剣に授業内容に文句を言ったりもっといい先生を雇えと学校側に要求したりと、教育というものは与えられるべきものだ、という考えが一般的なことに驚きました。また、いい意味でフランスのカルチャーの影響なのか、思ったことは抑えないで口にする、もしくは行動に移すところがとても印象的でした。ただ、学生の多くは非常に真面目で、仕事並みに提出課題も皆一生懸命こなしていました。

QLS:これから北米で留学・就労を考えている皆さんに一言お願いします。

西田:将来海外で働きたいと思っている人は、とにかく早い時期に出た方がいいと思います。やはり年齢を重ねてからでは、なかなか新しい文化に溶け込んでいくのが難しいような気がします。 留学や就労は、プラン通りにいかないことも多いので、あまり綿密に計画をたてずに、行動に移すことから始めた方がいいように思えます。私も留学する前はお金がなくて、長期的なプランは全く持っていませんでしたが、カナダに来てから自分の世界が広がったというか、いろんな可能性が開け、自分のプランが次第に明確になりました。もちろん、予算など、難しい問題もあると思いますが、奨学金など活用できるものは活用して、新しい自分の可能性にチャレンジするのもいいのではないでしょうか。日本の方はリスクをおかすおことに強い抵抗があると思いますが、リスクをリスクと思わず、純粋に自分への投資だと考えると海外生活も有意義なものになると思います。

とくにアドバイスはないのですが、個人的には、学校に行くことが海外で仕事をすることへの一番の近道だと思います。日本の学歴は海外ではあまり意味がありませんし、学校に行って英語力を磨き、その国の人たちと交わり、文化を知った上でないと、同じ土俵で現地の人と競争するのは非常に難しいです 。

QLS:西田さんご自身の今後の目標は?

西田:まだまだたくさんやるべきことはありますが、特に力をいれてやりたいことは、 クライアントとの交渉術、プレゼンテーション、コミュニケーション力を磨いていければと思います。英語が母国語でない自分にとって、やはりこうした技術は海外にいるかぎり常にチャレンジしなければならない課題です。アクセントがあるだけで相応に判断されてしまうのが現実なので、容易には解決できないとは思いますが、時間をかけ、いつかはもっと大きなステージで、責任のある立場から仕事をまとめていけるようになりたいです。

カナダに何年も住んでいるのに日本人の友達がほとんどいないと苦笑する西田さん。現地に完全に溶け込みカナダ人と伍して仕事をされている数少ない日本人の方だと思いました。周りと同じように進むという選択肢はなく、“英語圏ならどこでも”と果敢にチャレンジする姿は、グローバルなキャリアを志す人のロールモデルだと思いました。今後の一層のご活躍を応援しています。(QLS)