Bill C-38 Jason Kenny’s prerogative? – カナダ 移民政策の限界

 
カナダの移民省大臣Jason Kennyが前代未聞の決断を発表。2008年以前にスキルワーカークラスで申請済みの未処理ファイル10万ケース(申請者数 : 約28万人に当たる)を全てプロセスしない意向を示した。申請者に対してファイルを送り返して申請費用をリファンドするという。

CBCでこのニュースを読みながら、申請費用をリファンドすれば済む問題ではないと思いながら、一体どんな言い訳をするのかと、記事のすぐ左にあったJason Kennyのインタビュービデオのリンクをクリックした。

政府側の意図は、スキルワーカクラス移民の現状を理由にしている。移民の多くは能力にあった仕事につけていない。移民の失業率はこの30年間に上昇し続けている。ドクターやエンジニアであるはずの人たちがカナダに来て、タクシーの運転手をしているのはおかしい。

現行の移民制度では永住権取得に時間がかかり過ぎている。2014年までに申請者が数カ月のうちに永住権を取得し、また同時に能力にあった仕事が見つかる”Just in time system”を確立することが最終ゴールだという。”Just in time system”がそんなに簡単に実現可能なら、こんな問題は起こらないはずだと思いながらも、ビデオの中でJason Kennyが言及したカナダ移民の現状は、あながち間違っているとも言えないような気がした。

しがしながら、申請者側からすれば、ルールに従って申請して、散々待たされた挙句に、”やっぱり移民できません。” では納得がいかないのも無理はない。今回の政府の決断に対して数人の弁護士グループが既に中国や香港からの申請者を含め集団訴訟を計画しているという。

2002年7月にスキルワーカーのポイント制が導入され、パスマークが75ポイントに設定された。約1年後にパスマークが75から67に下方修正され、2006年9月にSimplified processing を導入。このSimplified processingにより大量に申請書が受け付けられ、これに歯止めをかけるべく、まず大臣の権限強化を法制化した上で、2008年から38の優先職種を導入。その後CAPの導入という経緯をたどり、2008年2月以前のファイルが最もプライオリティーの低いグループとしてこれまで放置されてきた。

外目には一瞬、カナダ移民省が権利を濫用して、弱者を無視した行為に走っているように見える。だから、弁護士も、自由党もここぞとばかりに、口を出す。また始まったと思う。

確かに、2008年以前の申請者を何年も待たせたことついては、移民省の政策に問題があったわけで、責められて当然なのだが、約28万人の移民申請を破棄することについてはどうなのだろうか。

どこの国でも移民政策というのはあくまでビジネスであって、慈善事業ではない。国の利益にならないことを突然やめることは、市場の変化に応じて、一般企業がリストラを行うのと何も変わらないような気がする。

プライオリティーが低く置かれ、列の後ろで待たされていた人たちには、後ろで待たなければならない理由があったはずだ。まして、現在の労働市場における職種ごとの需要と供給の関係が急速に変化していることは誰もが認識しているはずだ。移民しても能力にあった仕事が見つからなければ、カナダにとっても、移民者にとっても決して望ましい状況とは言えない。

カナダの移民制度自体残念ながら未だに試行錯誤を繰り返して進化し続けている。正直、今回のカナダ移民省の失策は俗に言う”Growing Pain”としか言いようがない。ある意味、移民政策の難しさを浮き彫りしたともいえる。

労働市場がハイテク技術革新によって絶え間なくニーズが変化していくにもかかわらず、移民政策がその変化にタイムリーに追いついていけない現実がある。

つまり、その進化の過程で間違いが出てくるのは避けられない。将来日本も移民政策でおそらく同様の問題に直面するのだろう。

ただ今回の決断に関して言えば、2009年の優先職種導入の時点で発表すべきだったような気がしてならない。この点については集団訴訟で移民省側が責められ、何らかの形で申請者に対して賠償することになるのは目に見えている。

しがしながら、カナダが誰を移民させるかを選択できるのと同様に、移民申請者もカナダだけではなく他の先進国を移民先として選択することができるわけで、列の後ろに並んでいた申請者の多くは、こんなこともあろうかと、ちゃんと”プランB”を考えていたはずだ。

もし” プランB” を最初から考えもしなかったとしたら、そんなタイプの人間が、仮に、カナダに移民したとして、本当に能力にあった仕事を見つけることができるのだろうか。

Jason Kennyの言う、統計が語る現状を侮ってはいけないような気する。

カテゴリー: Immigration タグ: , パーマリンク