We are all accomplices, aren’t we? - 需要と供給、どっちが有罪?


先週のニューヨークタイムズで「米ヒューレット・パッカード社が、生産を委託している中国の工場内で働かされている学生や臨時作業員の雇用条件に関して、中国側に新たな制限を課し始めた。」と報道された。これは米Apple社が中国の労働者搾取の現状を問題視して、昨年Fair Labor Associationに加わったのと同様の趣旨によるものだ。

中国では海外の大規模な製造業者と生産委託契約を結んでいる工場が、定期的にやってくる超短納期の大口オーダーに対応するために、高校生、職業訓練校の学生や臨時作業員を労働力として駆り出すというのはごく一般的な話だという。しばしば学校側が政府から圧力をかけられて、生徒を無理やり工場に送って働かせる。生徒はなぜ学校教育とは全く関係のないことをここまで長時間にわたって強いられるのかとクレームを入れるが、勿論中国政府も学校側もそんなクレームに耳を貸すはずもない。そして学校の理事がお礼として工場側からボーナスを受け取るという。

「こんな相変わらずの中国らしさを報道されてもニュースにもならない。」とため息が出る。

その一方で、こんな労働者搾取が自国では絶対に許されないことを知りながら、超短納期で中国に生産を依頼する海外の製造業者は、もう長い間この問題に関して見て見ぬふりをしてきた。彼らが本当に中国の労働者搾取問題を重大に受け止めているなら、中国以外の国をサプライヤーとして選択することはいくらでも可能だったはずだ。

そして、昨年米Apple社が、先週米HP社が正義の味方のふりをし始めた。いつものアメリカが顔を出す。ダメージコントロールは彼らのマーケティングの戦略の一部にすぎない。

きっとまた何も変わらない。いや、間違いなく、何も変わらない。

中国側の目には「注文された製品は、超短納期にもかかわらず、しっかり納品されて、製品自体に全く問題ないにもかかわらず、アメリカ人はなんでこんな文句を言ってくるのか。まあ、言いたいなら、言わせておけ。彼らは饒舌だけが取り柄の人種だから。好きなだけ言わせて分かったふりをすればそれで終わる。どんなにあれこれ言われても、彼らに24時間我々を監視できるはずもない。それにしてもこんなに他国の問題に口を出したがる国も珍しい。」。

アメリカ側の目には「インターネットのせいで世界に内情が筒抜けだから、一応正義の味方のふりだけはしておかないといけない。何を言ってもあの中国は中東と同じで永遠に変わるはずもない。でも国際社会にはやっぱり正義の味方だと思われなきゃいけない。それにしても中国の人件費が先進国並みになる前にもっと儲けないといけない。急がないと。」。

ふと、昔ニューヨークタイムズで、日本人が珍しい犬を欲しいがために多くのブリーダーが危険な交配に走っている状況を批判されたのを思い出す。消費者が珍しい犬ならいくらでもお金を出すというトレンドが、ブリーダーを危険な交配へと誘惑した。危険でも金儲けには代えられないというその誘惑に負けて、体に欠陥を持った犬が次々に生みだされ、売り物にならなくて即ゴミ箱行きにされたという話。中には生まれた瞬間は健康そのものに思われる子犬でさえも2年もたたないうちに突然発作を起こして死ぬケースが相次いだという話。法律では罰せられていないこの行為を目の当たりにしたライターがいみじくも最後に言い放った一言:

「消費者が欲しがらなければ、ブリーダーはつくらない。」、「ブリーダーがつくらなければ、消費者は買えない。」

悪者は一体どっちなのか?

労働者を搾取する中国、それを悪いと批判しながら中国に生産拠点を移す多くの先進国、そして出来上がった目の前にある物だけを見て大喜びの消費者がいる。

最近はトロントの街中を歩いていても、レストランにいても、カフェにいても、15年ぐらい前に日本の電車の中で見られたトレンド、つまり、取りつかれたように携帯メールを友達に流し続ける子供達が増えて、おそらく中国でつくられたはずのスマートフォンによって、このトレンドが今や北米にも浸透しているのがわかる。手がつけられないのは、ところ構わず大声で話をする饒舌文化をもつ北米では、イヤホンをつけた人が電車の中だろうが、カフェだろうが、ところ構わず大声で話をする声がプラスされる。家族とあるいは友達と、彼あるいは彼女と電話であるいはテキストで一日中繋がっていなければいけない理由が本当に存在するのだろうか。

中国の労働者搾取は今に始まったことではない。そしておそらく、国際社会からの批判を受けてもすぐに変わるとは思えない。

あくまで利益を追求することしか頭にない海外の製造業者は、中国の安い人件費と超短納期を二つ返事で受け入れる中国の体質が変わらない限り、上辺では正義の味方を装っても、中国をサプライヤーとしてキープし続けるだろう。

つまり、この問題を唯一解決できる力を持っているのは、中国でもなく、アメリカでもなく、スマートフォンを24時間ノンストップで不必要に使い続ける消費者自身、不必要な新機能が搭載された次期モデルを待ちこがれるオタク系の子供達自身。

彼らがガジェットの不必要性に目覚めて、デジタル社会のデカダンスをから脱却しようとしない限り、彼らは中国の労働者搾取を煽る共犯者であって、中国に生産拠点を移す米製造業者を中傷したり、中国政府の行動を批判したりする正義の味方には到底なりえないことをしっかり認識してほしいものだ。

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