Is Oscar Pistorius off-limits in South Africa? - 真実を問わない司法制度


2008年北京パラリンピックの100m走、200m走、400m走で金メダル三冠を達成し、2012年ロンドンオリンピックでは義足ランナーとして健常者の大会にも参加するという、前代未聞の偉業を達成。Blade Runnerの異名を持つOscar Pistoriusが成し遂げた奇跡は、自国南アフリカだけでなく世界の多くの人々を魅了した。

その南アフリカのヒーロー的存在であるはずのOscar Pistoriusが、2月14日のバレンタインデーに恋人のReeva Steenkampを殺害したとして起訴された。そして先週4日間にわたる保釈審理の末、Desmond Nair判事はOscar Pistorius被告の保釈を認める決定を下した。

保釈金は one million rand(約$112,000)、南アフリカにおける殺人事件の裁判でこれだけの保釈金が被告側に課せられるケースは極めて珍しいという。勿論、南アフリカでは法外だと思われるこの保釈金額がOscar Pistorius被告にとってはそれほど大きな負担にならないことは言うまでもない。

6月4日に公判が開始するまでこの保釈金以外に、Oscar Pistorius被告は現在所持する銃砲類、パスポートを押収され、目撃者にコンタクトすることを禁止され、殺人現場と認定された自宅を明け渡すことを強いられ、さらに現居住地Pretoriaを許可なく出ることも禁止された。また、公判開始まで週に2回警察に出頭してレポートすることが義務づけられ、公判が終わるまで薬やアルコールの摂取を止められたと報道されている。

「ヒーローだからって殺人罪を免れてはいけない。」と誰もが思うはず。

そして、今回の保釈審理中に捜査を主導した刑事Hilton Bothaが7件の殺人未遂容疑で捜査対象となっていることが発覚した。審理中に信頼性を欠く証言を何度となく繰り返したHilton Botha刑事は勿論それ以後ケースからはずされた。

Hilton Botha刑事の容疑の中には、ミニバンの外側から発砲したという事件が含まれているとの報道が流れる。

そんな人間がバスルームの外から発砲した人間の犯した殺人罪の捜査をしていたのか。そして被告に都合のいい証言をしようとしていたのか。

メディアの街頭インタビューでは、Oscar Pistoriusが南アフリカに今までどれだけ貢献してきたかを考慮すれば保釈が下りて当然だという声がライブで流れてくる。インタビューを受けた女子中学生が「彼はわざとやったわけじゃないから、悪くない。」と答えてしまう。南アフリカにおいてOscar Pistoriusがどれだけ偶像化されているかがうかがえる。

このメディアからの報道を聞いただけでも、「一体どうやって南アフリカでOscar Pistorius被告に対する公平な裁判を行うことができるというのか。」という思いに駆られる。

南アフリカでは毎日のように汚職事件や強姦殺人事件の記事がメディアを賑わすという。日常茶飯事的に目にする凶悪事件に免疫力を高める人々のモラルの低下は国を堕落させ、既に国民のほとんどが人間ひとりの命の尊さを正確に測る機能を失ってしまっている印象を受ける。

事実上、有罪か無罪かは裁判官が判断するのではなく、単なる政治的パワーゲームの結果が正義と呼ばれる社会。つまり、人ひとりの命の重さはどれだけ南アフリカに貢献しているかによって裏で政治的に決められてしまう社会。7件の殺人未遂容疑で捜査対象となっているHilton Bothaが今回の保釈審理に参加していたこと自体まさにそのことを示唆していると言える。

今回の保釈審理はOscar Pistorius被告が有罪か無罪かを決める審理ではなかったにしても、Desmond Nair判事は保釈を認める判決を言い渡す中で、Oscar Pistorius被告側の言い分に対して、なぜバスルームの外側から、中に誰がいるのかを確認もせずに発砲したのか、なぜ強盗が侵入したと思われるノイズに気づいてベッドから起き上がった時点で、隣に寝ているはずのReeva Steenkampがいないことに気づかなかったのか、なぜ不法侵入者の存在に気づいた時点で、携帯電話で助けを求めることはいくらでもできたはずなのに、逃げようともせず、危険を冒してまでも立ち向かおうとしたのか、6月4日の公判での焦点となるべき論点を鋭く示唆した。

実際に、iPhoneが2台バスルームに、BlackBerryが2台ベッドルームに事件当時あったことが明らかになっている。また、使われた拳銃のケースがReeva Steenkampが寝ているはずのベッドの下に置かれていたという。それなら、Oscar Pistorius被告がReeva Steenkampが犯行時点でベッドにはいなかったことを認識していたことになる。

近所の住人の証言によれば、犯行直前ともいえる午前2時から3時の間にどう聞いてもいい争いとしか思われない男女の叫び声が聞こえてきて、17分間ぐらいの間をおいて2度に渡って連続して発砲された数発の銃声が鳴り響いたという。

Oscar Pistorius被告の証言によればベッドルームは暗くてReeva Steenkampがいるかどうかはよく見えなかったというが、近所の住人の証言によれば、しっかり明りはついていたという。
Oscar Pistorius被告のベッドルームからはテストステロンと思われるドラッグと注射器が発見されて鑑識に回されている。また、ベッドルームの金庫からは違法に所持していた推定される38口径の拳銃が発見されている。

そしてさらに2月24日Oscar Pistorius被告の兄、Carl Pistoriusが業務上過失致死罪で訴追されているというニュースが流れた。駄目押しの一発。

この時点でこのケースではもう真実は問われないことを理解した。

ため息がでる。国全体が自国の司法制度が汚職によって機能していないことを受け入れている。

明らかに南アフリカにとっては真実よりも、Reeva Steenkamp の命よりも、もっと大切なのはOscar Pistoriusが国にもたらす栄誉、そしてその経済効果。つまり、この殺人事件を何もなかったように逃れようとしているのは、Oscar Pistorius被告というよりはむしろ、南アフリカ自体なのかもしれない。

Reeva Steenkampの父親がメディアのインタビューに答えて言い放った一言:Oscarが本当のことを言っているのであれば、いつか彼のしたことを許せるかもしれない。

残念ながらもはや真実を語ることができるのは Oscar Pistorius しか残っていない。

そしてその彼が真実を明かしてくれるとは到底考えられない。

こんな状況で6月4日に予定されている公判の意味が本当にあると言えるのだろうか。

彼の弁護団がどんな手段に訴えても、Oscar Pistorius被告を無罪放免にしようとして南アフリカがそれを受け入れるというのなら、それはもうメディアがあるいは国際社会が干渉できる領域を逸脱しているように感じる。

犠牲者Reeva Steenkampはもうほとんど話にも出てこない。

南アフリカがそこまでしてOscar Pistorius被告を無罪放免にしたいのなら、” So be it ! “。

ただ、せめてReeva Steenkampを失った家族が娘の死を乗り越えて再出発するためにも、あのバレンタインデーの日、あのOscar Pistoriusの大邸宅の中で、本当に何があったのかをいつの日か被告本人の口から伝えて欲しいと願わずにはいられない。このショッキングな事件でいつもより幾分興奮気味のメディアにはそのための努力をもっとして欲しい。

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