海外留学と言うと、留学先としてはヨーロッパ諸国の経済の先行きがかなり不透明な中で、北米、とりわけ拳銃所持が許されないカナダは治安の良さもあって、自然に選択肢のベスト3にランクインする。
インターネットが世界を結ぶポータルとして機能し始めている中で、その共通言語は残念ながら未だに英語。世界語としての英語の地位は当分変わりそうにない。
そのせいもあって、海外留学を通して英語を身につけて、できればキャリアも海外で成功させたいという夢を抱く若者たちの思いにはさらに拍車がかかっているように感じる。
短期留学、おケイコ留学、親子留学、シニア留学、ワーホリで語学留学から始めて、インターンシップ、大学、大学院へと進むパス、あるはスキルを身につける目的で留学するなど、この10年ぐらいの間に見る海外留学の変貌ぶりは、国境のない世界人的あるいは地球人的ともいえる意識の高まりを感じさせる。
海外留学という言葉には何か大きな夢を叶えてくれるような響きがある。
ところが、海外留学の現状は、その夢が簡単に実現するシナリオにはなっていないようだ。
海外留学中に英語が上達して現地の生活に慣れてしまうと、そのまま仕事を見つけてずっと暮らしてみようかなどと誰もが一度は考える。
カナダではこの留学生心理をくすぐるポスト・グラジュエーション・ワークビザというインセンティブが存在する。
このビザで留学生は、カナダの短大、大学卒業後に一定期間就労することが許される。これで大学側は留学生を世界各国から呼び寄せて商売大繁盛。
そして、これがまるでカナダ経験クラス(CEC)といったカナダ移民パスに繋がるように見せて、さらに留学ビジネスを加速させようとする。
一見、このビジネスモデルが留学生には大ヒットしているように見えるが、真実は大学を卒業してもなかなかカナダ移民の資格が得られるような仕事にはつけず、結局は母国に帰るというシナリオがむしろごく一般的のようだ。
日本人以外でも英語が流暢に話せる留学生でさえ、卒業後すぐに管理職レベルの仕事につけるはずもない。(卒業後、技術職、管理職としての1年以上の職歴がないとCECから移民申請できない。)
それどころか、カナダ人の若者たちでさえ仕事が見つけられていないというニュースをつい最近The Vancouver Sunが報道していた。
つまり、カナダの州の多くは、労働市場と教育機関のコミュニケーションがしっかりなされていない。
こんな中で、連邦政府のカナダ移民プログラム以外にも確かに、マニトバ州指名プログラム(マニトバ州は人口が120万たらず、そのうち60%がウィニペグ一都市に集中している州)やユーコン準州指名プログラム(人口25万人)といった人がほとんど住んでいないような土地でのカナダ移民プログラムが存在する。
カナダ移民の条件の1つとして、仕事についていればその仕事の種類はあまり問われない。
人がほとんどいないのに自分のやりたい仕事が本当にあるのか?
仮に、こんな形で移民して本当に後に繋がるのか?
この他にも、オンタリオ州指名プログラム、ブリティッシュコロンビア州指名プログラムやサスカチョワン州指名プログラムと言ったカナダ移民のパスもあることはあるが、申請資格を満たすには、どれもこれも結局は申請時に仕事があることが必須条件。
正直、どれもあまり現実味のあるカナダ移民のパスとは思えない。
自分が納得できないカナダ移民プログラムは勧められない。
そんな中、ケベック州はジョブオファーを必要としないカナダの中でも唯一本当に現実味のあるカナダ移民へのパスを提供している。
といってもケベック州の全てを勧めるつもりはない。仮にカナダに移民した場合にも日本人にとっては唯一モントリオールだけが満足の行く生活が送れる街だと確信できる。
ところが、残念なことに、カナダ留学と言うとブリティッシュコロンビア州やオンタリオ州だけが紹介され、ケベック州は、フランス語と言うだけで、モントリオールでは英語がちゃんと話されているのにもかかわらず、食べず嫌い的な偏見がケベック州を列の後ろに押しやってしまっている。
ケベック州モントリオールは、人口165万人、カナダでは2番目に大きい都市。
ここでケベックの見逃せない食文化の話や学費や物価の安さや、自然の美しさについては触れるつもりは毛頭ない。なぜなら、モントリオール留学が勧められる一番の理由はそんなところにはないと思うからだ。
モントリオールでは、短大、大学、職業訓練校もすべて英語でもフランス語でもどちらでも好きな言語で受けられる。
そして、何よりも、ケベックが他州とは違うのは、労働市場と教育機関が密接に繋がっていること。
ケベック州だけが教育を受けた後に仕事がなくてもカナダ移民申請が可能な制度を設けているのは、ケベックで教育を受けた人が仕事を見つけられるインフラをしっかり確立しているからだ。
労働市場の要求がどんなに急速に変化しても、教育機関側が柔軟にその変化に対応していく強さはケベック移民政策にしっかり反映されている。
つまり、ここがまさに、海外留学に同じ時間とお金を費やすなら、モントリオールを勧める理由に他ならない。
英語でスキルを身につけながら、フランス語も身につけられる環境で、2年間を死に物狂いで1つのことに打ち込んで過ごす結果は、ケベック州が例外なく評価してくれる。
職業訓練校について言えば、コースの中にはインターンシップが含まれているのでそこで就労経験を積むことができるだけでなく、卒業後も最高3年のオープンワークパーミットでさらに就労経験を積むことができる。その上、卒業の6か月前から、移民申請も並行して行うことができる。
世界的にも勤勉で努力家として知られている日本人にとってこんなに有利な土俵はないはずだ。
それにもかかわらず、フランス語圏だというだけで目をそむけてしまう現状については残念でならない。
これから海外留学を考えている方だけでなく、カナダの他州において短大あるいは大学教育を受けて英語が上達したにもかかわらず、仕事が見つけられず、カナダ永住権取得の夢を諦めかけている人達も含めて、もう一度このカナダ第2の都市モントリオールに目を向けて欲しい。
勿論、フランス語を身につけることと、スキルワーカとしての仕事を見つけることの難しさを比較した場合の答えはおそらく人によって違うはずだ。
ただ、カナダ第2の都市で中級レベルのフランス語を身につけるだけで、カナダ永住権取得が約束される時に、なぜ、大学を卒業しても、仕事が見つからない地域や将来があるとは思えない無人島のような地域を目的地として選択しなければないかという疑問に対する答えはしっかり出してほしい。
モントリオールで、英語でスキルを身につけて、並行してフランス語も身につけて、カナダ永住権を取得して、人生のオプションを広げるプランを立てることは決して悪いアイデアではないと断言したい。
10年後、20年後、30年後、自分はベストを尽くして精一杯やったという達成感に浸れる瞬間を思って頑張って欲しいと思う。