TFWP Collateral Damage -回避不能、実行が伴わない政策の犠牲者


昨年4月にオンタリオ州でRBC(Royal Bank of Canada)が外国人雇用プログラムを濫用して、カナダ人スタッフを解雇、その代わりにiGate Corpを通じてインドから安価なIT外国人労働者を雇用していた事実がニュースのトップに上がった。ほぼ同時期にRBCに続いたのが、BC州でカナダ人300人が応募していたにもわらず、中国からの外国人労働者約200名を炭鉱作業員として採用したHD Mining Internationalのスキャンダル。

メディアに煽れた世間は、例によってひたすら感情的にハーパー連邦政府の政策を糾弾した。そして、それから4ヶ月後の昨年8月、政府が出した答えは、以下の5つの政策ポイント。

1.A-LMOの廃止

2.LMOを申請する雇用主に対して、申請書に含まれる外国人労働者一人につき$275の申請料の課金

3.外国人労働者に対する賃金に関して、Prevailing Wageより5-15%低くオファーすることが許されていたルールの撤廃

4.広告を通じてカナダ人労働者を雇う努力として、最低でもJob Bankを含む3つのメディアに4週間以上の広告掲載義務

5.正当な理由がない限り、英語またフランス語以外の言語能力をポジションのリクワイアメントの中に含めることの禁止

あの時は、政府としても政治的にカナダ人の就労機会を保護しようとしている努力を国民に対して誇示する必要があったのは理解できる。

ただ、おそらく実情は、政府側もパニック状態で、メディアに煽られて「私は感情的になってこんなことを言っているんじゃありませーん!」と正に感情的に切れてしまう人々、つまり、客観的に物事の善し悪しの判断がつかなくなった人々に対し、鎮静剤を注射して眠らせてしまうような対策しか講じられなかったのだろう。

実際、どれもこれ偶然表面化した問題にモグラたたき的対策を講じているようにしか見えなかった。

案の定、その後禍が今年になって顕著になり始めている。“Effective Immediately”と政府側の強硬な態度が窺われた昨年8月から半年近くもかかって漸く実行に移されたと感じさせるこの政策も、実行の段階で多くの問題を引き起こしていることに、政府側が気づいていないように思われる。

そして、昨年起こったスキャンダルに続いて、最近ではさらにマクドナルドでの外国人労働者の雇用が槍玉に上がっている。

ふと、そう言えば、数年前にLive In Caregiverが雇用主に搾取される事件が起こり、Live In Caregiverを保護する対策が強化されて、外国人労働者の保護が叫ばれた時期があったのを思い出す。

あの時点でTFWP(Temporary Foreign Worker Program)を利用して、カナダ人労働者を比較的安く雇用できる外国人労働者に置き換える企業は既に数多く存在していたはずだ。

政府が掲げる外国人労働者の雇用に関する政策は、問題が起こるたびに国民に対して、犠牲者の利益を守る対策を打ち出すことで、政府が国民からの支持をさらに獲得しようとする動きに過ぎない。

問題は、掲げられた政策ではなく、その政策を実行する段階で起こっている。

現行のTFWPを公平に運営するために必要なスキルは、雇用主側がカナダ人の仕事を正当な理由なしに外国人労働者に与えようとしているケースを正確にスクリーニングし、排除する力。つまり、倫理観を持った企業家がビジネスを成長させようとする行為と、手段を選ばず、自己の利益のためなら、倫理に反する行為に走ることを厭わない企業家をしっかり識別できる判断力が必要とされるはずだ。そして、それは決して容易なタスクではない。

つまり、メディアが取り上げるストーリーに合わせて、連邦政府が外国人雇用ブログラムにパッチワーク的にどんな変更を加えたとしても、原則は、能力のある外国人労働者が搾取されずにカナダの経済成長に貢献し、かつ、カナダ人の仕事を取り上げないことが根底にあって当然なのだ。

ところが今年に入って、現実はその原則には程遠い全く不条理なルールに基づいた判断が次々に下されて始めている。

例えば、サービスカナダのプログラムオフィサーが正当な理由もなく主張するポイントは、不十分なリクルート活動、低い賃金レベル、人手不足が存在しない、と一見もっともらしく聞こえる却下理由が並べられる。

リクルート活動について言えば、あるオフィサーは、この広告メディアは、このポジションには適切でないと、その業界でもトップ3に入るジョブサイトを否定するコメントしたりする。勿論、それじゃ、どのメディアに広告を出せばいいのかを聞いてもNo Commentの一点張り。そして、突然「広告はこれでいいとしても、」と自己の非を認めたかと思うと、いずれにしても、このポジションは人手不足が存在しないと主張する。ところが、Working in Canadaサイトに行けば、人手不足が存在するのは、誰が見ても明白かつ客観的なプルーフが存在するにもかかわらず、サービスカナダ内部に各業界に明るいスタッフがいて、そのスタッフがこのポジションは人手不足が存在しないと言っているというのだ。本当にこんな判断が許されていいのか。

I couldn’t help mentioning, “Does this have something to do with the RBC scandal?” Then she goes again, “No Comment”

またあるオフィサーは賃金レベルが低いとクレームをつけてくる。Working in Canadaサイトに確認済みの賃金レベルに従っているのもかかわらず、「あのサイトはアップデートされていない。」と一言。それじゃどこに最新情報があるのかを聞くと、“Unfortunately, that information is only on our internal site.” と真剣に話をしている自分が情けなくなる瞬間。

雇用主側に追加書類として、全く必要のない会社のConfidentialな情報を信じられないようなデッドラインで要求して、雇用主側に週末返上で用意させた挙句に、明らかに提出した書類に目を通したとは思われないタイムフレームで却下する行為が本当に許されていいのか。

英語とフランス語以外の言語は正当な理由がない限り要求してはいけないという条件に至っては、仕事中に100%その言語を常時使っていなくてはいけない等極めて独断的な尺度でその判断を行っている。

最近話をしたどのプログラムオフィサーも口々にこの決断は全てトップダウンで従うしかない状況を示唆している。

明らかに連邦政府は、カナダ人の就労機会を保護しようとするがあまり、倫理観を持った企業家たちが、純粋に有能な人材を必要としている中で、その人間が偶然外国人であるケースを全く考慮していない。

間もなく、数多くの犠牲者が立ち上がってメディアを動かす予感がする。

ここでカナダ政府が改めて認識すべきことは、本当に必要とされているのは、国民が聞きたがっている政策内容を誇示することではなく、表向きの政策がどんなに変更されたとしても、その政策の実行段階で、避けられない無実の犠牲者の数を最小限に抑える努力を怠ってはいけないということではないのか。

カナダの現状は、企業規模が大きくなればなるほど、カスタマーサポートに電話をかけると、かける度に全く違うことを言われるというように、政府に限らず、オペレーションレベルでのスタッフのトレーニングの杜撰さは、国レベルでも永久の課題となっているはずだ。

まして、RBC、HD Mining International、McDonaldといったスキャンダル自体、メディアが介入してくる前に、サービスカナダ自身がオペレーションレベルですぐに気づいておかしくないことであって、それができない体制自体根本から見直す時期に来ている気がしてならない。

残念ながらルートコーズがこれだけ明らかになっていても、カナダの国としての力不足を考慮する限り、“Go Public!”メディアを味方に入れて文句を言ったもの勝ちの国としての体質は、永遠に変わることがないのかもしれない。

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