Deux Poids, Deux Mesures – 自己矛盾に陥る移民大国カナダ


もう20年も前の話になるが、オタワでカナダのハイテク企業に勤め始めてすぐに、ほぼ2ヶ月に1度のペースで2,3週間日本に滞在する生活を強いられていた時期があった。

日本国内を移動している途中でコンタクレンズのケースをなくしたことに気がついて、何の気なくデパートに足を運んだ時のことだ。

びっくりした。

いつもは秋葉原でしか見ることがなかった日本人のこだわりの文化を、東京のこのコンタクトレンズ売り場の一角で目の当たりにしたのを思い出す。

あの当時、と言っても今でもほとんど変わっていないような気がするが、北米では、例えばコンタクトレンズケースと言ったら、ほとんどの人が、ドラッグストアでコンタクトの洗浄液や保存液を買う時についてくるなんの変哲もないケースを使っていたはずだ。そんなものが市場で競争したりしない。ところが、日本ではその何の変哲もないモノのデザインやクオリティーが極限まで追求されていた。

セレクションの多さに、「えー」と思わず声を上げた田舎者がそこにいた。

昔、日本市場で一番になれば、世界でも間違いなくトップクラスになれると言った人の言葉を思い出しながら、努力を絶やさない文化に感心した。

これじゃ、別に海外から競合他社が乗り込んできたとしても、誰も文句を言ったりはしないのだろう。

一方、カナダでは、確か8月の初めだったと思うが、世界最大級のグローバルネットワーク・セキュリティ・クラウドプロバイダー、Verizon Communicationsがカナダに参入するというので、この競合にあたるカナダ大手3社Rogers, Bell, Telusが、この参入によって多くのカナダ人が失業してしまうことを懸念して、大騒ぎの反対デモを行ったというニュースが報道された。

ところが、その約1カ月後、Verizon Communicationsはカナダへの参入はしないというニュースと共に、結局Verizon側は最初からカナダになんて全く興味がなかったというニュースまで流れた。

本当なのか? 気になってアメリカ側のニュースをグーグル検索した。

確かに同時期にVerizon CommunicationsはVodafoneから彼らが持つVerizon Wirelessの 45%の株を手に入れようとすることに忙しく、カナダになんて全く目が向いていなかったようだ。このディールの規模は約130ビリオンドル。確かに、カナダが彼らの視界に入らないのも無理はない。

結局、ケーブルもインターネットも携帯も料金が下がらないのかと内心がっかり。

このニュースを聞いた時に、4ヶ月くらい前に、RBC(ロイヤルバンクオブカナダ)がインドから外国人を低賃金で雇用して、50代以降のプログラマーを解雇するという話がカナダで大きく取り上げられたのを思い出した。

移民省大臣が、「外国人雇用プログラムは、カナダ人の仕事を安価な労働力で置き換えるためにあるわけではない」、とカナダ人の味方をする見解を表明した。

「それは違う。」と思った。

20年ぐらい前にあったハイテクブームでは、何かとアウトソーシングするトレンドがあった。例えば、某クレジットカード会社のカスタマーサポートに電話をするとインドに繋がっていたことを思い出す。

インドの人たちは英語を話すだけでなく、電話での対応が北米とは異なり丁寧で、その上、何よりも彼らにアウトソースすることでオーバーヘッドが断然低く抑えられる。あの時は、明らかにカナダ人に対する雇用の機会が奪われていたのにもかかわらず、それに対して文句を言っているなんてニュースは一度も耳にしたことがなかった。

中国経済をここまで急速に発展させたのも、まぎれもなく、先進諸国が製造拠点を中国に移管したからではないのか。ここでもカナダを含む先進諸国の労働需要は中国に全て流れてしまっている。でも、そのことについて文句を言ったり、政府に救済を求めたりもしなかったはずだ。

努力を続ける人もいれば、怠る人もいる。

20年前に無敵と思われたウィンドウズの時代が終わり、あのアップルが見事に返り咲き、あの一世を風靡したBlackberryもまもなく姿を消そうとしているように、需要と供給の関係をベースに独占的に繁栄を享受している状況は決して永遠に続いたりはしない。

例えば、RBCの50代以降のプログラマーができる仕事を、もし彼らに払う半分の給料でインドからの外国人労働者ができるというのであれば、それをアウトソースすることが中国に生産拠点を移すことと本質的に一体何が違うのだろうか。確かに、サービスを提供する側がカナダに物理的に存在するか否かの違いはあるにしても、どちらも間違いなくカナダ人の雇用の機会を奪っている。

報道の中で、RBCは高利益を上げているのにもかかわらず安いインドの外国人を使おうとしていることを批判するコメントがあった。

ちょっと驚く。そんなことを言ったら、お金を持っている人は安売り製品を購入してはいけないのか。

ここでRBC側の行動を正当化するつもりはない。ただ、RBCがどんなに高い利益を上げていたとしても、例えば、同じ職場に長年住みついて、生産性が下がっても、このまま定年までいてやろうなんて思っている人間を企業が必ずしも雇っていなければならない理由はないはずだ。

それどころか、カナダ人が時給100ドルで提供しているサービスと全く同一のものを50ドルで提供できる外国人が現れた場合、このサービスの時給は、もはや100ドルの価値はないということをどうして受け入れることができないのか。

そして、もし時給50ドルでもその仕事を取るというのであれば、この時点で初めてこの仕事はカナダ人にオファーされるべきかどうかの議論が始まるような気がする。

同様に、Verizon Communicationsがカナダに参入してくることによって、自分の仕事がなくなってしまうとパニクルのは、自分の提供しているサービスがグローバルな土俵では競争力がないことを公に認めているだけでなく、世界に向かって、価格に対して見合ったサービスを提供していないことを公言しているのと同じではないのか。国内には競合がいないから、高くチャージしてのんきにしていればいいなんて、そんなことが許されていいわけがない。

本当に価格に見合ったサービスを提供していて、競争力を持ち合わせているなら、Verizon Communicationsの参入にあそこまで大騒ぎする必要なんてなかったはずだ。

恥ずかしい気がした。

難民を含む様々な形で移民を受け入れてきたカナダ。ともすれば、永住権を持っているか否かの違いがほとんど見えなくなってしまう瞬間が多い中で、取ってつけたように、外国人に自分の仕事が取られたと叫ぶ人達のデモにはあまり感心できない。

これは自分の能力がグローバルな土俵では通用しない現実に目をそむけ、「自分はカナダ人で、あいつは外国人だから。」という言い訳を見つけて同情を買おうとしているようにしか見えない。そして、困ったことにそれをサポートせざるを得ない移民省大臣がいる。

つい最近、トロントで一番大きいショッピングモールと言われるダウンタウンにあるEaton Centerの某レストランで、雇用主側がレストランをクローズするという理由で、従業員全員を一旦解雇した直後に、レストランの名前を変えて、新たに全く新しい社員を労働組合なしで雇用したことに、解雇された元従業員がデモを起こしていたニュースが報道された。

一瞬、雇用主側に対する同情の念が湧く。

インタビューを受けた50代のシェフが、「レストランをクローズすると言われて解雇された後すぐに、また新しいレストランが新しい従業員を採用してオープンした。労働組合がないと聞いたが、こんなことが許されていいのか。私はもう50代だから仕事もそんなに簡単には見つからない。」

この話にまたびっくり。情けない気がした。

グローバルに安価な労働力を探すトレンドはすでに地球レベルで始まっている。

「カナダ人の雇用の機会を奪うとはなんたることか!」と、一瞬もっともらしく響く価値観がすでに時代の流れにそぐわないことをしっかり認識する必要がある。

同様に、弱者保護を訴えるがあまり、権利の主張に夢中になっている弱者自身が怠け者なってしまっている現状も忘れないでほしい。

移民政策でここまで成功している移民大国カナダが、本当にしなければならないのは、もっとグローバルに競争力のあるサービスをどうやったら提供していけるのかを政府がリーダーシップをとって模索していくことではないのか。

あいつは外国人で、僕は私はカナダ人だから、無能で怠慢でも保護されるべきだなんて、そんな時代がこれからも続くとはどうしても思えない。

カテゴリー: Immigration, Unresolved Issues タグ: パーマリンク